2012年11月21日

You'd Be So Nice To Come Home To


You'd Be So Nice To Come Home To 「帰ってくれれば嬉しいわ」

ヘレン・メリルがクリフォード・ブラウンをバックに歌ったこの曲には、大橋巨泉の「名誤訳」と言われる邦題が付けられました。正確に訳すと「君が待っていてくれるのなら、家へ帰るのはさぞや楽しいことだろう」となるらしいのですが、誤訳とは言えあまりにも素敵なタイトルだったのでそのまま世に出されたというのが真相のようです。確かにこのジャケット写真と、切ないほどの彼女のハスキーな声を聴いてしまうと「帰ってくれれば嬉しいわ」そう歌われていると思う方がより現実的に感じてしまいます。
私は40年ほど前にこの歌を初めて耳にした時に、原題と邦題の両方を同時に覚えてしまいましたから、今でも誤訳の方がすんなりと入って来るんですが、この時代の音楽や映画の「邦題」には、それと類似した傾向が数多くあったように思えます。誤訳とも意訳とも取れない、かなり微妙な線であっても真実が伝わって来るような、今で言うキャッチ・コピーに近いものだったんじゃないでしょうか。当時のレコード盤のタスキに記された邦題もその典型でしたから、情報の少なかった時代に私たちはそこからイメージを膨らませ、様々に想いを巡らせていたものです。それらから思いもよらず恩恵に授かることもあるのですから、間違いというもの全てが悪だとは決め付けられませんよね。非常に難解な日本語の言葉と文法、受け止め方によって意味が変わってしまうのは避けられないことですし、受け手側の自由な解釈に委ねられるのはむしろ素敵に思えます。

それにしても、このアルバム・ジャケットは素晴らしいですね。私のお気に入りの一枚です。チューブのコンデンサー・マイクに向かって歌うその顔、そしてマイクのボディに重ねた文字、レコーディングのリアルさが伝わって来る秀作です。私にとっては、この写真と「You'd Be So Nice To Come Home To」は、今でもイコールであり続けているのです。

「帰ってくれれば嬉しいわ」
その叶わぬ想いが、今夜も焼酎と共に更けて行きます。

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