2013年10月11日

テーブル



でっかい旅行カバンを引き摺って
四日ぶりにカミさんが娘の家から帰って来た。
一日のほとんどを一人で退屈そうに留守番していた猫も
家族が揃った今夜は、なんだか嬉しそうにも見える。

この子は私が帰宅してテーブルに着くと間もなく
どこからともなくやって来てはテーブルの上に座り込む。
カミさんと話しながら酒を飲み、やがて晩飯を喰う段になるまで
座ったり床に降りたりを何度か繰り返し
最後に愛用のスティッチのグラスで水を飲んでから寝床に帰って行く。
毎晩必ず、欠かすことのない日課のひとつなのである。

一緒に飯を喰うわけではないのだが
テーブルという物が家族団欒の場所であることを知っているようだ。
たぶん自分が猫であることに気付かないまま育ったせいで
その憩いの場に(家族の一員として)参加しようとしているのだと思う。

けれど人が居なくては、テーブルもただの平べったい板だ。
無言の椅子とテーブルは、さぞかし寂しい風景だったことだろう。
仮に私一人が座って、テレビを見ながら酒を飲んでいたとしても
家の中には会話という聴き慣れた声が無い。
寝床からじっとこちらを見ながら、時折足元にはやって来るが
テーブルに乗って甘えることはしなかった。
当たり前の日常の風景と異なることは、猫にも緊張感を与えてしまうのだ。

いつもの顔、いつもの声が無くっちゃ、安心して暮らせないよぉ。
そう訴えかけているようだ。

平凡な日々と代わり映えのしない毎日を、時として人間は恨めしく思うことがある。
けれどもそれが何よりの幸せであることを、猫はちゃんと知っているのだ。
戻って来た我が家の日常に、きっと今夜は安心して寝ることだろう。

*

2013年10月10日

罪と罰



バースデー休暇と言うべきなのか・・
当初はライブを挟んで三連休の予定だったが、
直前の体調不良を理由に二日間休みを追加したものだから
終わってみると、なんとも豪勢なことに五連休となってしまった。

つまり今日は、六日ぶりの仕事場復帰だったわけで
久しぶりの電話とパソコンと座り心地の悪い椅子に疲れ果て
長く憂鬱な時間を過ごす結果となったことが腹立たしい。
娑婆で暮らす人々は相変わらずせっかちで機嫌が悪い。
それを相手する身にもなってみやがれ。
へへーんだ。

カミさんが娘のサポートでポンタ邸に泊り込み、
長女の帰宅は日付が変わってからなので一緒に飯を喰うこともない。
ヴィジュアル的に夜中のスーパーで一人買い物をする爺さんの姿はどうかと思ったが
やむなく仕事帰りに地元の西友へ寄って買出しをしてきた。
外で喰ってから帰ってもよかったのだが、車なので飲めない。
空の胃袋を酒で湿らせてからじゃないと晩飯が不味くなるので
私の場合は家に戻ってから喰うしかないのである。

今日と明日の分として、売れ残りで半額シールの貼られた弁当とパスタを買う。
幕の内弁当¥198、ナポリタン¥98、わかめスープ10袋入り¥198、
その他おにぎり2個、カップ麺数個、除菌ティッシュ、と籠に入れ
最後にふと目に付いた「サッポロ 麦とホップ」の黒と赤を手に取りレジへと向う。
一人暮らしの寂しき男が数日分の食料を買い求め・・
夜中の食品売り場のレジに並ぶと、そんな解説が頭に浮かび苦笑い。

そそくさと駐車券にスタンプを押してもらい
マイバッグに手際よく詰め替えて足早に立ち去ると、
独身かしら?単身赴任かしら?奥さんに先立たれたのかしら?などと
レジのパートさんや買い物客の想像を掻き立てるような光景を提供できた気がして
その先のストーリーを自分なりに展開させながらエンジンを掛け店を後にした。
深夜の食料品の買出しは、こうすることによって楽しいものとなるのである。

帰宅してみると、猫が〇んちをトイレの外に掻き出してあった。
一人で長い時間お留守番なので、たぶん何かを訴えているのだろう。
トレペで包み、床を掃除してからプシュっと栓を開け
くだらない一日を胃袋に流し込むように一気に飲み干してやった。


赤と黒、何やら罪と罰のように思えた夜である。

*

2013年10月9日

Mの字



胆石の手術で一週間ほど入院してた娘が今日退院したので
私の連休最終日は、見舞いがてらポンタ邸へと足を運んでみた。

娘が長く歩くのは久しぶりなので、私が付き添って駅まで行き
仕事から帰った旦那と合流して保育園のポンタを引き取り
少々の買い物を済ませてから家までの道を家族三人並んで歩いた。
寝るときは「川」の字だから、さしずめこれは「M」の字というところだろうか。

娘の話によると、ポンタがこうして両方の手を繋がれて歩くのは
自由がきかないのを嫌がって、どちらかの手を振り解いてしまうことが多いらしく
今日も最終的には父親の方の手を離してしまったが
かなり長い距離を楽しげに歩いていたのは珍しいことのようである。
(珍事だと聞き、暗がりで写真に収めてみたもののピントが甘かったのが残念だ。)

一週間、母親不在のため父子家庭となってしまったので
旦那が出勤前に保育園に預け、仕事帰りに引き取って帰宅する毎日に。
それでも泣かずに普段通り過ごしていたポンタは、偉いのか薄情なのか、
それとも風呂に入れたりご飯を食べさせたりしていた父親を困らせたくなかったのか、
真相は謎のまま今日を迎えたわけだが、
何はともあれ一週間を乗り切った父ちゃんを褒めてやらねばね。
ご苦労さん!!

娘はまだしばらくの間安静が必要なので、カミさんが昨日から泊り込んでいる。
故に今度はこちらが父子家庭。
子とは言っても三十過ぎた娘だから何も手助けは必要ないのだが
それはそれで気を遣う場面もあるにはあるので油断は禁物、なのだ。
注意深く、過ごさなければね。



さてさて、明日は六日ぶりとなる仕事場への復帰。
頭も体も切り替えて、かずら元年モードから離脱しなければならない。
それが億劫で憂鬱にさえなってしまう。
本当は、日常と非日常の境い目辺りに身を置きたいんだけどなあ~

型に嵌ったリアルな世界は
本音を口に出来ないところが苦痛以外の何物でもない。
現代人のストレスのほとんどは、おそらくそこから生じているのだよ。

歪(いびつ)だよなあ・・

*

2013年10月8日

ツレヅレ



私に花は似合わないのだが、
十数年ぶりに顔を合わせる女性がライブに来てくれて
プレゼントと一緒に渡されたので、つい受け取ってしまった。
(・・爺さんに花なら白菊だよな)笑

その女性と最後に会ったのは彼女が中学生の頃。
我が家の長男と同い年で、今じゃ三十代半ばを迎え
知らぬ間に大人の女性へと変貌していた。
しばらく音信が途絶えている間、いろいろと苦労もあったようだが
こちらから尋ねることも、彼女が話し出すこともなく
お互いが今と昔の間を行ったり来たりしながら楽しい時間を過ごすことができた。
それでいいのだと思う。
その場に居合わせた者同士が共有する以外のことは
敢えて言葉にする必要など無いのだから。

歌い終えた私は、一瞬にして爺さんの顔に戻る。
うっかり玉手箱を開けてしまった浦島太郎のようだとも思えるのは
ライブという非日常的な異質の空間から抜け出て来たからだろう。
若い女性と一緒に写真に収まると、それが際立つのは仕方のないことだ。


トモ、君はいい女になったものだ。
尖っていたあの頃とは別人のように、優しい息を吐く人間になっていた。
それが果たして良いことなのか、或いは個性が失われたことを憂うべきなのか
今の私には答が見出せないでいるけれど、今の君の優しい息遣いは好きだ。
酒が好きだという君と、いつかまたゆっくりと飲むことにしよう。

そしてもう一人、旧友であるジロウくんが新婚早々の奥様と一緒にやって来た。
顔を合わすのは1年ぶりくらいだろうか、彼もまたいい顔付きになっていた。
予想していた通り、初めてお会いする若い奥様も魅力に溢れるお方で
彼らの眼差しが、私の歌をより鮮烈なものに変えてくれたような気がするのだ。
多くを語ることは無かったけれど、二人は笑みを浮かべ満足気に帰って行った。
その後姿が、私には嬉しい。
皆が幸せな顔で帰って行く、それこそがライブの本質なのだ。


私はとても醜い形相で歌う。
それを隠そうとして帽子やサングラスを愛用したこともある。
でもいつからか、全て曝け出すようになった。
己の排泄物である音と言葉を観客に喰らわすことに、何の遠慮が必要なのか。
それが答だった。音楽は在りのままに汗まみれでやるもんさ。

それを喰らった中に、遠く石神井から足を運んでくれた70年代の友人であるツトム、
今まではFBでお付き合いしていただけの間柄である都内在住の篠原氏、
ノーボーダーで知り合い、いつの間にか仲良くなったタケーシーとウイニー姐御、
そしてバースデー(イヴ)ライブと聞き、駆け付けてくれた私の長男が居た。
一瞬でもいい、その毒を喰らった彼らが
私の血と肉、挙句は骨の味を噛み締めてもらえたとしたのなら
それほど楽しいことはない。
そんな境地に61歳となった私は立っているのだ。

来店した全ての方々を見送り、ギターを背負った私は夜の六角橋へと向う。
30分ほど掛けて急な丘を越え、徒歩で行くのがライブ後の楽しみでもある。
クールダウンを兼ねたその道程に、かつて皆が集った店の跡を目にすると
何だか懐かしくもあり、そして寂しい気分にもなってしまう。
ミュージシャン仲間が朝まで飲み語り合う、伝説の店だったのだが
そんな聖地も今はもう無い。

角を曲がり、馴染みの店に顔を出してバーボンを一杯だけ飲みながら
カウンターでパンクな女将と他愛も無い話をして直に出た。
もう一軒、この町へ来たときには必ず最後に立ち寄る店があるのだ。


腹が減っていたので、若女将であるレイナ嬢にオムライスを注文した。
失敗作だと言いながら「61おめでとう」と書いてくれたのが嬉しい。
レイナよ、爺さんは君の子供を早く見たいぞ。
そう言い残し、その昔は六角橋のジョー・コッカーと呼ばれていた男
ボギー大将の運転するタクシーを呼び家に帰ろうとすると・・

やって来たのは十日前に納車されたばかりだというガンメタ新車!
ハッチバックにスモークガラスなんて、そんなタクシーあんのか!?
乗ってびっくり、速い!そしてサスが硬い!
やはりこれはタクシーではないぞと思わせる走りっぷりであった。

東神奈川辺りを9981のナンバーで走る(怪しい)個人タクシーを見掛けたなら
迷わず手を挙げ試乗してみることをお勧めする。
運転手はスキンヘッドで強面なれど、気の優しい男なので怖がらずにね。
かずらの知り合い、そう言えばサービスしてくれるかも!(笑)

最後に、いつも優しく迎えてくれるノーボー店主のボーマスへ。
君の創り出す音空間は最高だよ。
昨日だって、とても気持ち良く歌えたのはセッティングのせいもある。
本当にいつもありがとう。
一年もの間、気長に待っていてくれてありがとう。
皆が帰った後で「一年ぶりとは思えないステージだった」
ボソッとそう言われたのを、聞き逃しちゃいないからね。
嬉しかったなあ~

さて、糞を喰らった如き諸君!
近いうちにまた逢おうぞ!!



「10月7日セットリスト」
Like A Rolling Stone(転がる石のように)
水曜日の朝
くさっちまうぜ!
コートの襟を立てて
夏が背中で
今宵夢路より
塀にもたれて
こんな夜は

*

2013年10月7日

ありがとう、ありがとう、ありがとう!



皆さま、直前の体調不良でご心配お掛けしましたが
61歳の前夜祭、滞りなく自らを祝うことができました!!

微熱と喉のイガイガ感のままでしたから
今夜は敢えて後攻をチョイスして
ビトちゃんが歌ってる間に酔い潰れて寝ちゃう作戦だったんですけど・・

酔えない!むしろ飲んでる間にどんどん醒めて行くオレ。
気がつきゃホームのベンチでゴロ寝、とは行かず
やむなく恐る恐る歌い始めましたとも。すると・・

あららら、やはり酒は一番の薬ですな!
病魔に犯され臆病だったオレ、自分でもびっくりなくらい歌いきれました。
それもこれもお客さまのおかげ、そしてメッセやら何やらの温かな声援のおかげです。

皆さま、ありがとう。
一年ぶりのライブ、とっても楽しい夜になりました。
そして61歳を迎えたオレ、今夜決心しました。

オレ、百八つまで生きてやる!!

*

2013年10月6日

爺さんの意地



微熱と喉のイガイガが続いてますが
もうだめです、もはや逃げられません。
365日ぶりのライブは明日に迫っているのです。
ひえーっ!!

不安材料と問題山積みのままですが
一年間の封印を解くことが無性に楽しくもあり
それがまた微熱の体温を更に上昇させているようです。
(ふだんは乾性の私の手、異常に汗をかいてますもの)
なんとかかんとか、来てくださるお客様を失望させないようにしなくっちゃね。
かずら元年は終わったな・・なんて陰口たたかれたくないですから
気持ち的にはすでに戦闘態勢に入っています。
人生は戦いだ!なあんてね。
明後日で61歳を迎える爺さんにだって、意地ってもんがあるのですよ。

そうは言いながら・・
今日は思うように声が出ないので、歌のリハは諦めて
夕刻から相棒2本のコンディションを整えることに専念しました。
明日起きてから、喉の調子を伺いながらどちらを使うか決めることにします。

さてさて、明日の結末は如何に!!




「二人の生誕記念日前夜祭」

2013年10月7日(月)反町NO BORDER
OPEN 19:00 START 20:00 MC¥500+投げ銭
出演:ビト、かずら元年

NO BORDER  横浜市神奈川区松本町4-28-2Rotunda1F TEL 045-314-8985
http://www.geocities.jp/noborderyokohama/top.html

*

2013年10月5日

喧嘩腰



父ちゃん、月曜のライブだいじょーぶなのか!?
もはや猫にも心配されるほどの体たらく。
ああ、情けなや・・

けどな、父ちゃんは不死身なのだ。
だいじょーぶだいじょーぶ。

・・ほんまかいな。

遅い朝飯を喰った後、再びベッドイン。
夕暮れ時までうだうだと布団の中に居りまして
今日は一日なあ~んもしないを実行したわけでありますから
少しは回復してくれたことでしょうよ、きっと。

明日の仕事も休みを取って、
しっかりと療養に励む所存でございます。

いやはや
365日ぶりに歌うことのプレッシャー、
思った以上にキツイもんだね。

・・ま、負けねえぞ~
喧嘩腰ではあるけれど、
腰砕けで弱々しいのが頼りない限りなり。

*