発売当時のYAMAHA YP-400には、SHURE M75B Type2が標準でマウントされていた。エントリ―モデルとして誰もが使ったことがあるであろうM44Gの上級モデルである。音質は44Gほどのクセはなく、ドンシャリ感が無いのでオ-ルマイティに使うことが出来る。今回落札した個体にも、当時のままオリジナルのシェルにはこれが付いていた。古い代物だし、愛用のカ-トリッジに交換しようと思っていたのだが、鳴らしてみるとこれが案外といい。44年前の製品だ、針は何度か交換してるだろうが、カモメマ-クのボディは紛れもなく発売当時の物だった。ところがカンチレバ-のテンションも十分で、歪も無く自然な音調がとてもいいではないか。見た目的にも付属のオリジナルシェルによく似合っている。現在でも正規品の交換針が残っているようだし、しばらくはこのまま使ってみることにしよう。
ちなみにこのYP-400はセミオ-ト、機構はサブモ-タ-による駆動ではなく、スイッチを押すと機械的にギアが動いてア-ムを上下するという極めてクラシックなスタイル。ア-ムを盤面へ持って行きPLAYボタンを押すとリフタ-が降り、OFFを押すか最終円まで行くとア-ムレストに戻って来る仕組みだ。ギアが動くので作動時の動作音はちょっと大きいけれども、UP・DOWN時はミュ―トが掛かるので、スピ―カ-からのノイズは発生しないという親切設計なのである。セミオ-トとはいえ、ア-ムが自動的に戻って来てくれるのは、酒飲みにとってはありがたいことである。
それにしても、昨日からいったい何枚のアルバムを聴いてることだろう。楽しいのだ、ディスクをセットしてPLAYボタンを押すのが、実に楽しいのだ。まさに音を楽しむ状態、これは久しぶりの(懐かしい)感覚だ。DENONの引き締まった音とは明らかに異なり、ふっくらとしていて温かい。これはおそらく、耳では検知できない微妙な音の揺れと、箱型のボディが音を膨らませているせいなんじゃないかと思う。僕が求めていたのはこの音で、ゆえに旧いベルトドライブを探すきっかけにもなったのだ。振動対策として箱型から重くて堅い積層合板やレジンコンクリ-トの素材を使うようになってからのモデルだとこうは行かない筈だ。その辺りが、周波数特性だけを見て、音の楽しみ方を知らない技術者のつまらなさでもあるわけで、アナログが衰退して行ったのも、そんなところに原因はある。巨大なインシュレ-タ-が取り付けられた20Kgほどもあるプレ-ヤ-が、必ずしもいい音を出すとは限らない。箱型のYP-400はわずか8Kg、周波数特性では劣っていても、音を楽しく優しく表現してくれる。
このモデルの特異なテ-ブルマットの形状についても語っておこう。レコ-ド盤が面接触ではなく点接触するよう突起が設けられている。クリ―ナ-を押し当てるとわかるのだが、盤面がスリップせずマットに密着している。ほとんどのディスクは歪んでいたり反っていたりフラットではないので、平面のマットでは隙間があちこちに生じてしまう。それを解消してくれるこの形状が、ふっくらとしてはいても分離がよく締まった音に繋がっているのだと思う。44年も経過してるのに、ゴムが硬化しておらず突起がひとつとして欠けてないことも驚きだ。こまめにメンテしていたであろう前オ-ナ-には頭が下がる。そして感謝しかない。