カミさんが入院してから今日で28日が過ぎました。
早いもんです、あれから間もなく一ヶ月が経とうとしています。
頭が混乱して、始めは億劫になることもあった毎日の見舞いですが
今ではすっかり僕の日常に組み込まれてしまった感があります。
人間て馬鹿ですから、慣れてしまうとそれが当たり前のように思えてしまうんですよね。
これが日常なんだ。
そんな風に受け入れてしまうと、煩わしさや面倒臭さは全く無く
病室に着くと、いつもの決まった用をさくさくとこなせるほどになりました。
毎日同じ時刻に、欠かさずやって来る僕を見て
「やさしい旦那さんですね」と、周囲からカミさんは言われるらしい。
それを彼女から聞かされると、僕は猛烈に反発したくなるのです。
照れでも何でもなく、そう言われてもにっこり笑うことすら出来ません。
「やさしさなんかぢゃねえよ」
僕は・・
降りかかる災いや試練を
そのまま受け入れているだけなんです。
本当に彼女を想う気持ちがあったとしたなら
あの夜、救急車を呼んでくれと本人から言われるまで
呆然と立ち竦んでいたりはしなかった筈ですから。
一部始終を見ていた僕の目の前で起きた事故を
未然に防ぐことさえ出来なかった後ろめたさが
「やさしさ」などと言われてしまうことで、とても憂鬱になってしまいます。
男の女々しさです。
僕の代表曲でもある『134号線の夕陽』は
「南へ下れ」と、命令口調の詩で綴られてはいますけど
男の弱さと、どうにもならない過去と未来を歌ったものなのです。
あの日・・
8月18日といえば、夏も終わりを迎える頃ではありましたが
陽射しも強く、まだまだ暑かった記憶だけは残っています。
それがもう、秋の気配を漂わせるようになり
季節の移ろいと時の流れが、いつもの年以上に早く感じられます。
お空の上では、夏と秋とが鬩ぎ合いの様相を呈していて
モクモクと力強く天に昇ろうとする雲が行く手を遮られているようで
それを見ていると何だか滑稽でもあり、寂しくも思えてしまうのです。
さらば夏よ、また来年ここで逢おうな。
今年はもう使うこともあるまい。
エアコンが無い僕の部屋の暑さ対策に一役買ってくれた扇風機、
埃を払い分解して、元の箱に収めてあげました。
そのまま収納してしまうと、無駄なほどスペースを占領してしまいますから
シーズンオフにはこうして箱詰めすることを予てから考えていたのです。
丸くて大きな物を四角い箱に収めると、ベッドの下の僅かな空間に入るだけじゃなく
埃や汚れからも守ってあげられるので、きっと来年も元気に活躍してくれることでしょう。
去り行く夏を見送りながら
人も、町も、空も、みんなご苦労さまでした。
そう呟く夜なのです。
それは・・
やさしさなんかぢゃないよ。
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