家に居る他の猫や犬、そして家を訪れる人間たち
そのほとんどに対して、まるで見下しているかのように
いつもツンとして愛想を振り撒くことをしませんでした。
気を許した相手以外には、媚を売ることもせず
お嬢様の血統らしく堂々とした振る舞いに徹していたようです。
当然、仲良しのお友達は居ません。
けれども彼女のポリシー通りに生きて行く日々の中で
寂しそうな素振りを見せることはありませんでした。
その張り詰めた気持ちから、ふっと息を吐いたとき
化粧を落とした少女のように、彼女はとても甘えた表情になるんです。
床から私や家族を見上げるときは、いつもこの顔で
オバチャンの歳頃になっても、少女のような瞳は変わりませんでした。
家庭内に友達が居ないせいもあり、ふだんは無口なんですが
突然堰を切ったようにたくさんお喋りを始めることがあります。
それもピィピィと甲高い声で、一般的な猫語とは明らかに異なる発音です。
13年前に初めて我が家にやって来たときもそうでした。
ピィピィと鳴く白い子猫に、子供たちはピィちゃんと名付けました。
先月末、突然お尻(正確には陰部)から出血して子宮蓄膿症と診断されましたが
そのときの血液検査で重度の腎不全であることが分かりました。
先生曰く、生きてるのが不思議なくらいの末期的状態で
腎臓はほとんど機能してないくらいの数値だったようです。
この夏を越せるのか尋ねてみましたが、先生の顔には「無理」と書かれてました。
あれから十日ほど、日に日に痩せ衰えて行く姿には
かつての気品ある容姿や愛くるしい瞳の輝きが見られなくなったどころか
数日前からは歩くこともままならない状態にまで陥ってしまいました。
それでも家族が集まるのを待ってくれていたのか、
金曜には末娘が来て、土曜には一番可愛がっていた長男が来て、
ひと通りのお別れをすることが出来ました。
昨夜、30分おきくらいに痙攣が始まり
3時頃までは私と女房と長女が皆で体を擦っていましたが
朝の5時頃、添い寝していた女房に看取られ息を引き取りました。
享年13歳、お嬢様の道を貫き通した見事な生き様だったと思います。
夏の盛りですから、今日のうちに荼毘に付すことになり
今までの他の家族と同じように阿久和のペット葬儀場へ向いました。
我が家から車で15分ほどの場所、今回で10回目です。
不思議なことに、ここへ来るときはいつも快晴。
青い空から燦々と陽が降り注いでいるのです。
20年以上前から変わらぬ風景のこの一角、
ここに立つと、いろんなことが思い出されます。
生前のピィちゃんを可愛がって頂いた皆様、
そしてお悔やみの言葉を掛けてくださった皆様、
この場を借りましてお礼申し上げます。
*