私に花は似合わないのだが、
十数年ぶりに顔を合わせる女性がライブに来てくれて
プレゼントと一緒に渡されたので、つい受け取ってしまった。
(・・爺さんに花なら白菊だよな)笑
その女性と最後に会ったのは彼女が中学生の頃。
我が家の長男と同い年で、今じゃ三十代半ばを迎え
知らぬ間に大人の女性へと変貌していた。
しばらく音信が途絶えている間、いろいろと苦労もあったようだが
こちらから尋ねることも、彼女が話し出すこともなく
お互いが今と昔の間を行ったり来たりしながら楽しい時間を過ごすことができた。
それでいいのだと思う。
その場に居合わせた者同士が共有する以外のことは
敢えて言葉にする必要など無いのだから。
歌い終えた私は、一瞬にして爺さんの顔に戻る。
うっかり玉手箱を開けてしまった浦島太郎のようだとも思えるのは
ライブという非日常的な異質の空間から抜け出て来たからだろう。
若い女性と一緒に写真に収まると、それが際立つのは仕方のないことだ。
トモ、君はいい女になったものだ。
尖っていたあの頃とは別人のように、優しい息を吐く人間になっていた。
それが果たして良いことなのか、或いは個性が失われたことを憂うべきなのか
今の私には答が見出せないでいるけれど、今の君の優しい息遣いは好きだ。
酒が好きだという君と、いつかまたゆっくりと飲むことにしよう。
そしてもう一人、旧友であるジロウくんが新婚早々の奥様と一緒にやって来た。
顔を合わすのは1年ぶりくらいだろうか、彼もまたいい顔付きになっていた。
予想していた通り、初めてお会いする若い奥様も魅力に溢れるお方で
彼らの眼差しが、私の歌をより鮮烈なものに変えてくれたような気がするのだ。
多くを語ることは無かったけれど、二人は笑みを浮かべ満足気に帰って行った。
その後姿が、私には嬉しい。
皆が幸せな顔で帰って行く、それこそがライブの本質なのだ。
私はとても醜い形相で歌う。
それを隠そうとして帽子やサングラスを愛用したこともある。
でもいつからか、全て曝け出すようになった。
己の排泄物である音と言葉を観客に喰らわすことに、何の遠慮が必要なのか。
それが答だった。音楽は在りのままに汗まみれでやるもんさ。
それを喰らった中に、遠く石神井から足を運んでくれた70年代の友人であるツトム、
今まではFBでお付き合いしていただけの間柄である都内在住の篠原氏、
ノーボーダーで知り合い、いつの間にか仲良くなったタケーシーとウイニー姐御、
そしてバースデー(イヴ)ライブと聞き、駆け付けてくれた私の長男が居た。
一瞬でもいい、その毒を喰らった彼らが
私の血と肉、挙句は骨の味を噛み締めてもらえたとしたのなら
それほど楽しいことはない。
そんな境地に61歳となった私は立っているのだ。
来店した全ての方々を見送り、ギターを背負った私は夜の六角橋へと向う。
30分ほど掛けて急な丘を越え、徒歩で行くのがライブ後の楽しみでもある。
クールダウンを兼ねたその道程に、かつて皆が集った店の跡を目にすると
何だか懐かしくもあり、そして寂しい気分にもなってしまう。
ミュージシャン仲間が朝まで飲み語り合う、伝説の店だったのだが
そんな聖地も今はもう無い。
角を曲がり、馴染みの店に顔を出してバーボンを一杯だけ飲みながら
カウンターでパンクな女将と他愛も無い話をして直に出た。
もう一軒、この町へ来たときには必ず最後に立ち寄る店があるのだ。
腹が減っていたので、若女将であるレイナ嬢にオムライスを注文した。
失敗作だと言いながら「61おめでとう」と書いてくれたのが嬉しい。
レイナよ、爺さんは君の子供を早く見たいぞ。
そう言い残し、その昔は六角橋のジョー・コッカーと呼ばれていた男
ボギー大将の運転するタクシーを呼び家に帰ろうとすると・・
やって来たのは十日前に納車されたばかりだというガンメタ新車!
ハッチバックにスモークガラスなんて、そんなタクシーあんのか!?
乗ってびっくり、速い!そしてサスが硬い!
やはりこれはタクシーではないぞと思わせる走りっぷりであった。
東神奈川辺りを9981のナンバーで走る(怪しい)個人タクシーを見掛けたなら
迷わず手を挙げ試乗してみることをお勧めする。
運転手はスキンヘッドで強面なれど、気の優しい男なので怖がらずにね。
かずらの知り合い、そう言えばサービスしてくれるかも!(笑)
最後に、いつも優しく迎えてくれるノーボー店主のボーマスへ。
君の創り出す音空間は最高だよ。
昨日だって、とても気持ち良く歌えたのはセッティングのせいもある。
本当にいつもありがとう。
一年もの間、気長に待っていてくれてありがとう。
皆が帰った後で「一年ぶりとは思えないステージだった」
ボソッとそう言われたのを、聞き逃しちゃいないからね。
嬉しかったなあ~
さて、糞を喰らった如き諸君!
近いうちにまた逢おうぞ!!
「10月7日セットリスト」
Like A Rolling Stone(転がる石のように)
水曜日の朝
くさっちまうぜ!
コートの襟を立てて
夏が背中で
今宵夢路より
塀にもたれて
こんな夜は
*